最終更新日:2024年2月17日
どうも、おばんです。QCたかです。
クローン技術は技術的な問題点はあるものの、着実にその技術を発展させています。
しかし、現代の倫理的な解釈のもとでは、ヒトはその技術を自身に使用できずにいます。
ところが、クローン技術の使用に一切のためらいを持たず、強引に要求してくるヒトがいます。
今回は、こんな話をしてみます。
最後まで、見て行ってくださいね。
目次:
Copy Exactly!(CE!)とは?
Copy Exactly!(コピーイクザクトリー!)という言葉があります。
これを日本語で表現すると「完全複写」です。
この「複写」の対象は「4M」です。「4M」とは、ヒト(Man)、モノ(Material)、方法(Method)、機械(Machine)の4つの頭文字をとった言葉です。
なぜこの4つなのかと言いますと、品質管理において、改善や工程変更などを行う場合、これら4つの要素の変化点を注視し、監視する必要があるからです。
それだけ、これらの要素は品質に与える影響が大きいと言えます。
例えば、材料の「購入メーカーを変更した」とします。
購入する材料はJIS要求を満足した材料ですので、同じ材料と言えます。
しかし、「まったく」同じだと言い切れるでしょうか。
例えば、材料に含まれる成分のうち、ある元素の含有量が微小に異なっているかもしれません。
異なっていてもJIS基準を満足しているので不適合ではありません。
一般的に、これは「ノウハウ」と呼ぶ部分です。
その微小な差で、表面の色味が変わるかもしれません。
受入検査員の誰かが色味が違うことに気づき「異材が納入されている!」として不適合を発行するかもしれません。
はたまた、微小な成分の差で、硬度が変わっているかもしれません。
硬度が変わった場合、加工切削性能に変化が表れて「加工ツールの摩耗が早く進んでしまう!などのコストデメリットが生まれるかもしれません。
このように「購入メーカーを変更した」だけのことだと思っていたのに、ヒトや機械などにも影響が出る可能性があります。
だから、改善や工程変更には、これら4つの要素に変化はないのか、変更前に十分に確認する必要があります。
これを一般的に「4M変化点管理」と呼んでいます。
話をもとに戻しますと、Copy Exactly!は「完全複写」であり、「複写」の対象は「4M」でした。
つまり、「4Mを完全に複写」ということです。
4M変化点管理は「変更したところを重点的に監視せよ」でしたが「変化点とかじゃないの。変化させないで!」という考え方になります。
なぜ、Copy Exactly!なの?
このCopy Exactly!を導入したのは、皆さんのPCの中にも入っている「○○入ってる」がキャッチフレーズで有名な米国の某半導体製造メーカーです。
半導体素子を製造する工程は、超クリーン環境化で、ばらつきを極限まで抑えたものづくりをすることになります。
1枚のSiウェーハで大量の半導体素子を作りますので、目にもみえないような塵やホコリなどが、Siウェーハに乗ってしまえば、それだけで1枚まるまる不適合になり、損失金額が膨れ上がります。
要は、そんなシビアなものづくりをしている、ということです。
そういうシビアな工程(プロセス)ですから、それを作る半導体製造装置にも、相当なシビアな要求がきます。
そして装置には、何百、何千の部品が使われていますから、それぞれの部品にもシビアな要求がきます。
極端に言えば、ネジ一つからして、厳しい要求がくるわけです。このような厳しい要求を積み重ねて、半導体製造プロセスは成り立っているわけです。
このように厳しい要求がある世界なのですが、例えば、ある部品メーカーが、部品の形状を変えたとします。
その形状は目に見えるような変化ではなく、微妙に寸法を変える程度でした。
その寸法の変化は、装置メーカーとの取り交わしをしている寸法内の変化だったため、装置メーカーには報告をしていません。
微妙に寸法を変えたので、部品の平均値はシフトしました。
とはいえ、装置メーカーと約束している寸法には入っていますので、決して不適合ではありません。
そして、装置メーカーでの受入検査、装置組み立て、出荷検査を全部パスし、半導体メーカーへ納入されました。
ところが、しばらくたって、半導体製造メーカーより「どうも最近、不適合率が上がっている!おかしい!数億円はロスしている!!」とお怒りの電話が装置メーカーに入ります。
装置メーカーが必死に原因を調べます。
そうしたところ、どうも形状を変えた部品の平均値がシフトしたことによって不適合が発生した、と判明しました。
部品メーカーとしては、約束通りの寸法に入れたものを納入したはずなのに、この微小な変化が、最終的な半導体製造に影響が出てしまった、ということです。
つまり、このような「勝手な変更」が、プロセスへの影響度を見極められない。
だから、何も変更しないで納入してきてくれ!という要求になったわけです。
何百何千という部品が半導体製造装置に使用されます。
そのうちの、わずか1個の勝手な変更で、不適合が発生し、原因を特定するのに、膨大な時間と労力を使うことになります。
後工程に行けばいくほど、原因の特定が難しくなります。
だから、各部品ごとに変化点がないか自分自身の工程を十分に監視していく「自工程保証」が重要な考え方で、それをメーカーとサプライヤーの関係で実施していく。
これが、Copy Exactly!の考え方になります。
クローン技術を強制する法人格企業
Copy Exactly!は、圧倒的に上位組織が優位です。
当然、半導体製造メーカーが絶対的な権力を持ちます。
それと同等の力を半導体製造装置メーカーも持っています。
半導体製造装置メーカーに部品を供給するメーカーは、圧倒的監視下に置かれ、自由な行動が禁止されます。
そしてその行動制限に対し、コスト優遇もありません。むしろ、コストダウン要求をしてきます。
行動を制限されたうえ、コストダウンまでさせられる。
まさに「悪魔」です。
これが、冒頭に言ったクローンを技術を強引に要求してくるヒト、もう少しちゃんと表現すると「法人格を得た企業」です。
法人は、この悪魔じみたクローン技術をなぜ行使しなければ、ならないのでしょう。
キーワードは「垂直立ち上げ」です。
例えば、事業拡大につき、新しい製造ラインを作るとします。
イチから工場を建てるのですから、もともとあった製造ラインとは環境が変わってしまいます。
ですが、それではダメなのです。
グアムであろうが、南極であろうが、製造ライン内は同じ環境でなければ、同じアプトプットが出てきません。
そのため、製造ラインの温度、湿度、大気中のゴミの量、地面の振動など、あらゆるばらつきの影響を受けない環境の工場に作り込むわけです。
そして、半導体製造装置ついてもそうです。装置ごとにばらつきが発生しては、同じアウトプットが出せません。
そのため、寸法、機械特性、作動性、明るさ、温度、作業方法、材料など、ありとあらゆるもののばらつきの影響を極限まで減らした装置を作り込むわけです。
そうすることで、新しい製造ラインは、今までの製造ラインと同じアウトプットが出せることになります。
そして、そのアウトプットが完全に一致する条件が把握できていれば、装置ごとに時間がかかる調整や高度な調整技術がなくても、新しい製造ラインをどの場所でも短期間で立ち上げることができる。
これが、Copy Exactly!の目的となります。
真の悪魔は、資本主義
「垂直立ち上げ」の目的は、当然、ビジネスに勝つためであり、素早い行動がビジネスに重要なのだと思います。
そして、コストをかけないことも重要な要素だと思います。
米国で工場を建てるより、東南アジア圏で工場を建てる方が、圧倒的に安くなります。
ましてや、製造したアウトプットが同じであれば、安い投資で、今までと同じ金額を稼げるわけですから、良いことしかありません。
結局は、力の強い企業が、力の弱い企業あるいは経済発展を遂げていない国々から搾取をし続ける構造に落ち着きます。
つまり、Copy Exactly!の真の目的は「搾取」であると言えます。
この「搾取」が世界中に横行し、地方の過疎化、賃金格差、強制労働を加速させているわけです。
SGDsのゴールである「10.人や国の不平等をなくそう」は、この資本主義社会への問題提起なのだと、ボクは解釈をしています。
だから、アジェンダ2030の「誰一人、取り残さない」に対して、Copy Exactly!のまま行動していては、決してゴールには到達しない、と考えられるわけです。
この問題に対しての解決策は多くないかもしれません。
ただ、QCたかとしては「myself is myself(自分のことは自分自身で)」を提案したいと思います。
myself is myself(自分のことは自分自身で)
半導体の製造においては、微小なバラツキで品質に影響が出てしまうことは、理解しているつもりです。
その微小なバラツキを把握し、対策を行うことは、本来半導体製造メーカーや装置メーカーの仕事です。
技術的に難しいことなのかもしれませんが、そこにチャレンジしていくことは、メーカー自身にしかできません。
その微小なバラツキに「ある特定の部品」が影響していることが把握できたのなら、メーカーが求める品質になるようにスペック(基準)を決めて、そのスペック(基準)を満たす部品をカネで買えばよいのです。
その基準を示さないまま「一番最初に作ったものから、何一つ変えないでね」という要求は、メーカーがバラツキの原因を特定することを諦め、部品メーカーへ責任を転換しているだけです。
そのスペック(基準)が厳しすぎて、部品メーカーが「作れません」というのであれば、別の部品メーカーを探せばいいし、どのメーカーも作れないのであれば、そのスペック(基準)は、現在の技術では成し遂げられないのです。
ですから、その技術が確立するまでは、メーカーは不適合を受け入れざるを得ないし、やり方そのものを変えなければいけない。
自分のことは自分自身で解決しなければ、なりません。
逆に部品メーカーの立場でも、自身の変更管理はきっちりやらなければいけない。
例えば、加工方法を変えるのであれば、図面要求を満足できる加工方法なのか、加工方法の変更に伴い、他への波及性(例えば、色味が変わるとか、熱影響で硬度がかわるとか)を正確に把握しなければならない。
そのうえで、この変更に問題がなければ、変えればよいわけです。
その変更が、メーカーのスペック(基準)を逸脱しないのであれば、加工方法を変えようが、加工者を変えようが、加工場所を変えようが、何も問題はないのです。
それでもメーカーが、自身の問題解決力のなさを認め「何に影響するか、わからないので変えないでくれ!」というのであれば、「何も変えない」というスペック(基準)をオプションにして販売すればよいのです。
これが、半導体製造メーカーや装置メーカー、部品メーカーとしての「myself is myself」です。
Copy Exactly!という名目で、不当に「搾取」される時代は終わらなければなりません。正当にカネに変えるべきです。
メーカーとの付き合いが長いから、とか、いまさら言えない、とか、値上げすると受注がもらえない、とかじゃないです。
掛かる費用はきっちり請求するべきです。
そして、メーカーもお願いした以上は、カネを払わなければなりません。
「値上げは困る」というメーカーの勝手な都合を押し付けてはいけません。
この互恵関係こそが、世界が目指すSGDsであるわけです。
そして、この関係は企業間に限ったことではないです。
ヒトと企業、世界と企業、国と国・・・
2030年まであとわずか。
皆さんは、今日からどのように行動していきますか?
「myself is myself(自分のことは自分自身で)」と、何かのブログに書いてあったな・・・と、ふと思い出して頂けたら、幸いです。
オススメ書籍
リンク
フェアチャイルドから離れた3人の天才、創業者であるロバート・ノイスとゴードン・ムーア。
そして、アンディ・グローブ。
この3人を「インテル・トリニティ」と呼んでいます。
注目したのは、このトリニティではなく、4代目CEOとなったクレイグ・バレット。
彼がCE!を考えたのです。
「良い成果が出たプロセスを、何も考えずそっくりそのまま模倣し、繰り返す」
ノイスやムーアの技術屋では、考えつかない方法だと思います。
なぜなら、技術屋は、原因を追究したいからです。
原因もわからないのに、そのままやっちゃえ!とはなりません。
ですが、バレットの考え方でインテルは急激に成長してきたわけです。
長い書籍ですが、一度読んでみては?